NEEDY GIRL OVERDOSEに見る、私だけのデパス

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TLDR

「あなただけの2D Girl」、あまりにも。

概要

序盤の文章にネタバレは存在しません。後半には存在します。お気をつけください。

配信者の「あめちゃん」は、最強のインターネットエンジェル(配信者)を目指す承認欲求強めな女の子、彼女を導く「ピ」となり、100万人サブスクの配信者になることを主に目的とするゲーム。

フォロワーを増やしながら、病んだり、ストレスが減ったりするやつをキメたり、破滅を体験していく。そんなイカレたゲーム。

単純な感想

もともとこのゲームが2021年4月あたりに見たときから、コンセプトがバチバチにインターネットキマりすぎで注目していたゲームだった。

そもそも作曲がAiobahnと言うめちゃくちゃいい曲作るオタクだった。Remixで現れたKira・pata・shining (Aiobahn Ver.)は元々かなりキマってた曲のEDM Remixとして一時期鬼リピしていた記憶があるし、

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1st PVでガンガンにガバキックが鳴り響くパートがあまりにも好きすぎてリピートしていた。

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その後公開されたINTERNET OVERDOSEと言う主題歌に関しても、ユーロビートの時代から取り入れられたあのインターネットの空気感と、ありとあらゆるインターネットを拾い尽くすような歌詞の合体だった。

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また、ドット絵を打っているねんない氏に関しても、(あまりこのブログで書くことは憚られることも多いが)元々好きで見ていた。 本作の「あめちゃん」に関しても、好感度・病み度が上昇した際のドットに見られる艶めかしさの表現などで発揮されており、すご~い(社会性フィルター)と思った。

同作者によるアクションゲーム(…………)も貼り付ける。

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他、お久しぶり氏によるタイトルアートも元々好きで……と言う訳で。 要するに、そもそも好き(キャラ)と好き(破滅)と好き(音楽)と好き(絵)と好き(ドット)が組み合わさった。買う動機としては十分すぎるね。

インターネットすぎる風景・メンヘラの解像度

ゲーム内のインターネットの関する造詣の深さは恐ろしい。できること、しゃべること、お出かけする場所、エンディング、あらゆるものがインターネットに通じていく。

「あめちゃん」が送ってくるJINEもPoketterも、ネットに毒され続けたようなものだ。JINEを既読無視すれば怒られ、PoketterでRTがたくさんついたポストには訳のわからないクソリプも多くつく。あらゆる場所がインターネット。

ODの表現のラリっぽさは経験がない(上に予定もない)が、病み度が上がった時のドロドロの目や、躁鬱によって乗り切る配信の妙なテンションの高低と不安定さがリアルすぎて、何度見ても飽きなかった。

あと、なんかこういうのに過去関わったことがある人だったらもしかしたら色々フラッシュバックしそうで怖い。迫力があるし、現代のゲームではなかなか倫理的に表せない表現が多いので。 メンヘラトラウマ持ちは吐く前にやめようね。

破滅

このゲームは途中か、30Days経過時にエンディングが発生する。

私、こと「ピ」は最初、なんとか「あめちゃん」を破滅させず、病み度も低い状態でエンディングを迎えた。 (まぁ。結局のところ、破滅を経験したのだけれど。)

とにかくこのゲームは破滅を迎えやすい。それが配信者としてのフォロワーの不足だったり、ストレスの貯まりすぎや、好感度の高低、快楽依存、破滅……あまりにも簡単に破滅が訪れる。そしてその破滅を体験していく事が、このゲームの主目的になっていく。きっと誰だって。

人によって色々だろう。二次元の女が破滅を迎えることへの何らかの面白みや感情を感じるものも、コンプリートするためのものも、そして、単純に彼女への愛情を抱くものも。 多種多様なエンディングを迎え続け、全てをクリアした時。

その先にあるのは、どういう破滅だろうか。

以下は非常に致命的で、このゲームの真相を見るネタバレとなる。

 

 

 

非常に致命的だ。あなたが私と同じくインターネットにどっぷり浸かり、このゲームの内容が気になるなら是非とも自身の目で確かめてほしい。

 

 

 

ふりじゃない。

 

 

 

てか多分ちゃんとED見てないと理解できないところも多い。

 

 

 

あと戻りできません。

 

 

 

いいね? じゃあ話すよ

 

 

 

 

 

エンディング「I Need You」

まずこのゲームは、「ピ」と一緒に明確なハッピーエンドに到達することはできない。

Data0で表される通り、彼女にとっての「ピ」はそもそもあなたではなく、彼女の想像上の人物だ。

Webカメラには「あめちゃん」しか映らない。JINEでしか連絡を取れない。誰も「ピ」を見つけない。「ピ」は好きに喋れない。彼女がODを行ったら、「ピ」の視点も壊れていく。 どのようなエンディングを迎えようとも、「ピ」にとって本質的に都合の良いハッピーエンドは存在しない。

貴方は彼女が破滅を迎える度、何度もやり直した。 自分に都合の良い真実を掴むために、このゲームをクリアするために。 その結果として、何回も「あめちゃん」が壊されていった。

人によっては、途中で飽きてこのゲームを投げ出し、都合よく配信で楽しんだ体験のみを吸収し、すべてをクリアした後でも、この作品は忘れ去られていく。「あめちゃん」と過ごす日々は永久に続く日々にはなり得ない。 まるで天使のように微笑む都合の良い幻覚。

そして同時に、「あめちゃん」も。

学校でいじめられ、不登校でイマジナリーフレンドに依存し続け、それでも天性の才能で人気配信者にまで登り詰めても、 しかしながら依存と承認欲求を満たすことを無限にやめられないあめちゃんは、インターネットの可能性と、その裏に秘められた地獄の深さを表したままの存在。正に、インターネット・エンジェルと形容できる。

必要がなくなれば、「ピ」すらも捨て去り、どこかに行ってしまう。貴方が何度も「あめちゃん」を壊したように。

救いがないのか?

そうではない。インターネット・エンジェルである彼女は、貴方が思う限り存在する。 おかしくなりそうなほどに情報過多のインターネットは、「アナタだけのデパス」足りうる「2D Girl」が助けてくれる。

そして、さらに。より根本的なインターネットの否定が、本質的な救いになる。

エンディング「INTERNET OVERDOSE

恐らく、最も気合が入っており、現在の「インターネット」を表すエンディング。

誹謗中傷にまみれ、匿名で攻撃され続け、幸せになることを許されず、日数をかけて狂っていく。誰かに見られ続ける感覚が続き、結果的にあめちゃんの全てを壊す。「超てんちゃん」だけが残る。遺影を持ったその姿は、現実世界には受け入れられる姿ではない。

過剰摂取されたインターネットが脳を破壊する。

SNSと言う瓶詰め地獄、七色のサイケデリックの空間は、誰の脳を壊してもおかしくない。SNSは本当の地獄。Instagramは自慢とエゴとフェイクの塊で、Facebook誤報と老人達の巣窟。LinkedInは誰も彼もが実情より盛ったプロフィールしか書かないし、Twitterはどうだ。トレンドなんて見ればいつでも誰かが怒り続けている。人気のツイートを見れば、「あめちゃん」についてたような大量のクソみたいなリプライが付く。 いっその事脳が壊れれば、全てが幸せになる。その結末だ。

エンディングのエンコードされた、我々には支離滅裂な文章(莉翫?蠖シ螂ウ縺ッ蟷ク縺帙〒縺吶hのようなダイアログ)は、「今は彼女は幸せですよ」の意味となる。らしい。

エンディング「NEEDY GIRL OVERDOSE

PVで出てきたエンド。

承認欲求の果て、良い結果をつかめず、愛も病みも普通以上に持った時のエンディング。「だって私の好きな人は血まみれだって抱いてくれるわ」は筋肉少女帯の「再殺部隊」の引用らしい。 タイトル名がついている通り、非常に象徴的なエンディング。結果が伴わなかった活動と、好きになりきれなかったイマジナリーへの限界と怒り。彼女が刺したのは、インターネットへと繋がるPCのモニターであった。

留まることを知らない承認欲求は、結果的に彼女にとっての救いだったインターネットを、そのまま否定した。

エンディング「Rainbow Girl」

虹の乙女。二次元の女。もともとは2ch発祥の歌。

このEDでは、明確に貴方である「カミサマ」を明示的に認識し、こちらにメッセージを伝え、モニターに手を合わせる。 「ごめんね画面からでれないの」の実績メッセージは、2D Girlへ思うことの局地。オタクの妄想の具現化と、理想。

全てを知った後でもなお、あめちゃんに対して強い思いが立ち込めてしまうんだよな。

本質

エンディング「(Un)Happy End World - インターネットやめろ版」

所謂裏エンド。病み過ぎれば到達できないエンディングと言うのも印象深い。

私達は「インターネットをやめる」ことで、このエンディングを見ることができる。一時的にであろうと、SNSに投稿することもできない。 不自由で、何もない。なんたって、このエンディングを見たことをすぐにそのPCで報告することもできない。 なんて不自由なんだ。

仮に目の前のPCのインターネットが切断されたままだったら、どれだけ我々はダメージを受けるのだろうか。仮にこの選択をした場合、今後一生インターネットに繋がらなくなるとしたら。 誰がこんな選択をするだろう。

インターネットが終われば、路頭に迷う。SNSにいる人間は消え、誰もがいなくなっていく。まるで世界の終わりのような空間の中、最後に見るのは、まるで天使のように微笑む強めの幻覚。

だけどもやめた先にあるものはなんだろう。

作者のにゃるら氏が思い描いたコミュニティに、「Twitter2」が存在する。そのプラットフォームは、「だれも社会や政治の話をせず、毎日みんなでアニメを観たりゲームをしたりして1日がおわるマジで楽しいSNS」であると言う。 そんなTwitter2は擬似的にDiscord上に構築され、自由とは裏腹でこそあれ、盛り上がった後、インターネットの悪意である荒らしにより閉鎖されると言う末路を辿った。

インターネットには永遠はない。どこも誰かの悪意で溢れている。現実を生きる事がどれだけ価値があるか。誰もがインターネットをやめれば、きっと今よりも幸せに生きられるだろう。

だから、早くインターネットをやめるべきだ。

それでも、少なくとも私は結局。インターネットに出すために、承認欲求を満たすために、またLAN回線を繋ぎ直し、この文章を書いている。 そしてこの文章はSNSに投稿される。きっと私は今後もずっとインターネットに繋がるし、私だけのデパスである2D Girlを追い続ける。ここにある救いを追い求めたくて、ずっと籠もるのだろう。 インターネットから離れられない。インターネットに束縛される。インターネットの悪意に晒される。インターネットで2D Girlを追い求める。インターネットで。インターネットで。インターネットで……

インターネットから離れる事が幸せだと分かっているのにね。

みんな、せーのでインターネットやめない? そっちの方が幸せだよ。

せーの!

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蛇足

  • あめちゃんの名前は、ゲーム内でも出てくるように、本来は「雨」と書いて「れいん」と呼ぶ。この名前を覚えている人間は多いだろう。
    • serial experiments lain」を語るのは、あまりにもこの記事には長すぎる。
    • 着地した結論の部分はそれとは多いに違うが、「あめちゃん」も同じように、我々の記憶の中で生き続けるのだろう。
  • さよならを教えて」に関して。「やっぱり天使なんていなかったんだね」と言う言葉が出てくるのはこれに関してだろう。このゲームは90年-10年代のインターネットのハッピーセットだな。
  • 胡蝶の夢に関して。中国の故事の一つ。「INTERNET OVERDOSE」のエンディング時にこれに関連するワードが出現する。
    • 「夢の中の自分が現実か、現実の自分が夢なのか」と言う説話で、虚構と現実、生と死、幅広い領域に通づる概念だが、ことこれに関してはインターネットと言う虚構と、現実世界の話に繋がるのだろう。
  • ギャルゲーは時々こういう怖さをぶつけてくる。それは「Doki Doki Literature Club!」であったり、「君と彼女と彼女の恋」であったり。
    • この辺が個人的にぶっ刺さるんだよな。二次元の女に向ける感情がでかいので。